所長挨拶
Message from the Director


京都大学防災研究所長  堀 智晴 



2024年4月1日より、京都大学防災研究所長を務めることになりました堀 智晴(ほり・ともはる)です。1983年に京都大学工学部生として水資源研究センターに配属され、池淵周一先生のご指導を頂いたことが防災研究所との出会いでした。修士課程を終えた後、工学部土木工学科、工学研究科、地球環境学堂を経て、2007年4月より水資源環境研究センター地球水動態研究領域を担任しております。これから2年間、榎本剛副所長(将来計画担当)、境有紀副所長(研究・教育担当)、矢守克也副所長(広報国際担当)、西村卓也副所長(評価公正担当)とともに、研究所の運営に尽力して参りますので、皆様のご協力とご支援をよろしくお願い申し上げます。

防災研究所は、創立以来70年余り、災害学理の追求と、防災学の構築に関する総合的研究・教育に取り組んで参りました。我々に災害をもたらす自然現象(ハザード)には、地震、火山噴火、地すべりや斜面崩壊、土石流、洪水・渇水や強風などがあります。様々なハザードのメカニズム解明に取り組む研究者が揃っていることが、防災研究所の大きな特徴です。ハザードが人間社会と接することで被害が発生し災害となりますが、そのプロセスと防止方法を、理学、工学だけでなく、情報学、人文・社会科学、芸術といった様々な角度から考究する研究者が一堂に会していることも防災研究所の特徴です。自然現象の様々なタイプを深く理解し、それらが災害となる過程を多角的に分析し、防災のための知を創造する、総合的で熱い営みの場が防災研究所です。

しかし、残念ながら毎年自然災害によって多くの人命と財産が失われています。災害研究は日々進歩しており、それが被害の防止や軽減に役立っていることは間違いありません。一方で、自然や社会も変化し続けており、特に社会が発展していく過程で図らずも弱さをはらんでしまった部分がハザードによって傷つけられる場面を見ることが増えています。たとえば私の専門である水資源工学の領域でいえば、令和6年能登半島地震では、破壊された水道施設の復旧が難しく、断水がなかなか解消されない地域が多くあります。清澄な水を遠くまで運んで供給する、水道システムの広域化・大規模化は供給能力や効率性の向上に役立ちましたが、一方で、被災箇所の多くを直さなければ全体が機能しないという弱さをはらむことにもなりました。このように、一見、進歩に見える社会の変化も、実は災害の危険性を包含していくことがあります。

我々は、完全に安全とは言えないけれども今差し迫った危険に直面しているわけではない、といった状況で生活をしていることに気づかなければなりません。こうした状態を未災という言葉で表現し、自分たちは未災状態にあるということに気づき、住民自らの営みをもって防災・減災に取り組むという社会を作らなければならないという考え方が防災研究所の中で生まれました。この考えを実現するための学理を未災学と名付け、昨年度、斜面未災学研究センターが新たに設置されました。さらに、地球温暖化のようにハザード発生機構の変化によってまだ経験したことの無いハザードに今後遭遇するかも知れないという状態も未災と言えます。防災・減災をテーマに研究を続けてきた防災研究所の部門・センター群は、未災学という新たな横串をもって、より重層的・総合的な研究と教育に取り組んでまいります。皆様のご支援・ご協力を改めてお願い申し上げます。

    2024年4月
















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  >> 2021年4月 の所長挨拶 『所長就任にあたって(中北英一)』 は こちら
  >> 2019年4月 の所長挨拶 『所長就任にあたって(橋本 学)』 は こちら
  >> 2019年1月 の所長挨拶 『2019年を迎えて』 は こちら
  >> 2018年1月 の所長挨拶 『2018年を迎えて 』 はこちら
  >> 2017年4月 の所長挨拶 『中川一 新所長からのメッセージ』 はこちら
  >> 2015年4月 の所長挨拶 『新しい年度にあたって』 はこちら